
このシリーズについて
2026年のお盆休みに、Claudeと一緒にレンタルスペースの予約システムを作り始めました。
私はプログラマーではありません。コードは書けません。数年前にシステム会社に見積もりを取ったときは、「半年・最低500万円」と言われて諦めました。
そこから2週間。予約カレンダー、料金設計、決済、Googleカレンダー同期、50種類以上のメール通知、そして自動解錠まで揃ったシステムが動き出しました。
11回にわたって、その過程を書いてきました。失敗も、やらなかった判断も、公開後に起きたトラブルも、隠さずに書いたつもりです。
最終回では、2週間を通して私が何に気づいたのかを書きます。
一番驚いたこと
振り返って、一番驚いたことは何か。
技術的な話ではありません。
私でも、優秀なプログラマーを配下に置けるという事実です。
これまで、システムを作るというのは「誰かにお願いすること」でした。見積もりをもらい、要件を伝え、上がってきたものを確認する。相手の手が空くのを待つ。予算が合わなければ、諦める。
そうではありませんでした。
やりたいことを説明すれば、その場で形になります。 違えば直せます。試して、違和感があれば、また直せます。待つ時間も、遠慮も必要ありません。
この関係が手に入るというのは、思っていた以上に大きな変化でした。
全部を作る必要はありません
ここで、誤解を解いておきたいことがあります。
今回作ったのは、複雑な予約システムでした。ここまで読んでくださった方の中には、「さすがにこれは自分には無理だ」と感じた方もいると思います。
でも、全部を作る必要はありません。
言い換えてみれば、こういうことです。
- SwitchBotの仕組みだけ
- 支払いの部分だけ
- 予約カレンダーだけ
- デジタルサイネージだけ
そういった部分的なオリジナルのシステムを、皆さんも持つことができます。
予約管理そのものは既存のサービスを使いながら、鍵の運用だけを自動化する。支払いの流れだけを自社の都合に合わせて作り直す。空き状況を見せるカレンダーだけを用意する。館内の表示だけを自動化する。
それでも十分に意味があります。むしろ、そこから始めるほうが現実的かもしれません。
では、誰にでもできるのか
正直に書きます。
私と同じノンプログラマーの方が同じことをやって、100%同じ結果にたどり着けるとは思いません。
ただし、かなり近いところまでは、皆さんやれると思います。
ポイントは、ここまでの11回を読んでいただければ分かると思いますが、技術的な話ではありません。
やりたいことを、体系的にきちっとAIに説明できるかどうか。
これに尽きます。
第1話で、システム会社用に作った簡単な箇条書きのメモが役に立ったと書きました。第8話では、噛み合わないのはAIのせいではなく私の説明不足だったと書きました。5W1Hを押さえて、なぜそうしたいのかという背景まで伝えると、返ってくる提案の質が変わります。
コードの知識は要りません。自分の仕事を、言葉にできるかどうかです。
ただし、持てないものもあります
そのうえで、付け加えておかなければならないことがあります。
同じように未経験の方が挑戦したとしても、私が持っている10年の運営経験までは持てません。
なぜ31日前を基準にしたのか。なぜ昼夜の料金区分を作らなかったのか。なぜ回数券を予約に跨がせない仕様にしたのか。なぜ商談中フラグが必要なのか。
これらはすべて、10年間このビジネスをやってきたから分かることでした。AIに聞いても出てきません。私が答えを持っていたから、決められたのです。
シリーズを通して繰り返し書いてきたとおり、運営経験が、そのまま仕様書になっていました。
逆に言えば、自分の商売を10年やっている方には、すでにその資産があるということです。足りないのは技術ではありません。
なぜ、このシリーズを書いたのか
12回分、手の内をほぼ全部公開しました。
理由は単純です。
このような複雑なシステムも、AIを駆使すれば実現できる。 そのことを皆さんに知っていただきたかったからです。
そして、できれば皆さんにも挑戦してもらいたいと思っています。
隠しておいたほうが商売としては有利かもしれません。でも、私自身が「500万円」と言われて何年も諦めていた側の人間です。同じ状況の方が、まだたくさんいらっしゃると思っています。
この話の、本当の行き先
最後に、なぜ私がここまで熱心にお伝えしたいのか、その理由を書きます。
オリジナルのシステムを持てるということは、直販に到達できる可能性が上がるということです。
レンタルスペースに限らず、多くの事業者がポータルサイトや仲介サービスに集客を頼っています。便利です。何もしなくてもお客様が来ます。
しかし、手数料がかかります。
私たちの業界でいえば、ポータル経由の手数料は30%程度です。10万円の売上に対して3万円。これが毎月、毎年積み上がっていきます。
直販は、手数料がかかりません。 そのまま売上になります。
ではなぜ直販が難しいかというと、受け皿がないからです。予約を受けて、決済して、日程変更に対応して、鍵を渡す。この仕組みを自前で用意できなければ、結局ポータルに頼るしかありません。
その受け皿を、自分で作れるようになった。
全部でなくていいのです。支払いだけでも、鍵だけでも、自社の都合に合った仕組みを持てれば、直販の可能性は確実に広がります。
そこに気づいていただきたい。 それが、このシリーズを書いた本当の理由です。
おわりに
2週間で作ったシステムは、今も毎日動いています。
そして、まだ完成していません。公開後も改善は続いていますし、これからも続きます。第10話で書いたとおり、作った本人には見つけられない不具合が、これからも出てくると思います。
それでも、自分たちで直せるというのが、いちばんの違いです。
このシリーズが、どなたかが一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しく思います。
長い連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。
【筆者】
レンタルスペースALBE 運営会社 株式会社ファーストクリエイト 代表取締役 鬼頭創一
シリーズ一覧(全12話)
- 連載まとめ・目次
- #1 きっかけ編|「作れます」の一言から始まった
- #2 準備編|Cloudflareが何かも分かっていなかった
- #3 予約カレンダーと顧客導線|なぜ日付から入らせるのか
- #4 料金設計という難所|AIは「やめたほうがいい」とは言わない
- #5 決済とStripe|「借りてくるもの」だという思い込み
- #6 Googleカレンダー双方向同期|台帳は1つでいい
- #7 メールと通知の設計|10年間、諦めていたこと
- #8 思わぬ落とし穴|2回、巻き戻しました
- #9 ローンチ当日|「あっ、ヤバい」
- #10 ローンチ後に起きたこと|作った本人には見つけられない
- #11 予約システムが、画面の外に出た日(SwitchBot連携)
- #12 最終回|私でも、優秀なプログラマーを配下に置ける(この記事)
運営ルールの記事