「当日、現地で払います」に、どう答えるか
レンタルスペースを運営していると、必ずこう言われます。
「当日、現地でお支払いすることはできますか」
個人的な集まりのパーティー。参加者で割り勘をする予定の飲み会。学生さんのイベント。目的が私的なものであるほど、前もってお金を払うことを不便に感じる方は多いと思います。
ここで事業者は選択を迫られます。柔軟に対応して予約を取るか。原則を守って、その予約を逃すか。
私たちレンタルスペースALBEは、創業時から一貫して前入金でやってきました。10年以上、その原則を変えていません。
この記事では、なぜ前金なのか、前金にすると何が起きるのか、そして例外をどう扱っているかを、実際の運用と数字を交えてお話しします。
最初は、ただの真似でした
正直に書きます。創業時に前入金を選んだ理由は、大した話ではありません。
ポータルサイトが前払いだったから、それを真似ました。
スペースマーケットやインスタベースでは、予約時にお金を払う仕組みになっている。だから自分たちもそうするものだと思った。それだけです。
しかも、この理解はおそらく間違っていました。ポータルサイトの多くは、予約の時点でカードの与信を確保し、実際の課金は別のタイミングで行っていると思われます。厳密な意味での「前入金」とは仕組みが違う。
ただ、当時の私はそこまで考えておらず、素直に「先にお金をいただくものだ」と思い込んでいました。
もう一つ参考にしたのが、他業界の慣習です。
不動産の家賃は前払いです。 住んだ後に払うのではなく、その月が始まる前に払う。場所を使う権利に対して、先に対価を支払う仕組みです。
ホテルにもデポジットがあります。 私は前職で25年間ホテル業界におりましたが、当日予約のお客様にはチェックイン前にお預かり金をいただいていました。
場所を使う権利を売るビジネスは、先にお金を受け取る。そういうものだと考えました。
理由は後からついてきたものですが、結果的にこの判断は正しかったと思っています。
利用後にしかお金をもらえない、という危うさ
なぜ前金でなければならないのか。理由はシンプルです。
利用後にならないとお金がもらえない状態は、キャンセルされたら完全にアウトだからです。
前日にキャンセルの連絡が来る。キャンセルポリシー上は料金が発生する。でもお金は一切預かっていない。ここから請求するとなると、連絡をして、事情を伺い、金額を伝え、振込をお願いすることになります。
払っていただければいいですが、払っていただけないこともあります。逃げようと思えば逃げられる。
当日のノーショー、つまり連絡もなく現れないケースもあります。
規約を整えても、この構造は変わりません。回収する手段を持っていなければ、規約は絵に描いた餅です。
前金は、お客様と私たちの立場をフラットにする
ただ、私が前金を続けている本当の理由は、回収リスクの話ではありません。
お客様が事前にお金を払うことで、自ら行った予約に対して責任を感じていただける。 ここが本質だと思っています。
お金を払っていない側は、いつでも降りられる立場にいます。事業者はその日その時間を空けて待っているのに、片方だけがリスクを負っている。これは対等な関係ではありません。
前入金をいただくことで、両者が同じ重さの約束を持つことになります。
前金は、お客様と私たちの立場をフラットにする仕組みです。
事業者が自分を守るための仕組みではなく、対等な取引にするための仕組み。私はそう捉えています。
前金は「機会損失」ではなく「フィルター」
とはいえ、現地払いを希望されるお客様は確実にいらっしゃいます。前金にすることで、その予約は取れません。
これを機会損失と考えるべきでしょうか。
私は違うと思っています。
当日にならないとお金をもらえない不安定な予約を受けること自体が、ビジネスとして危ういのです。
前金は、その不安定な予約に事前にフィルターをかけている。そう考えれば、失っているのではなく、選別できていることになります。
実際、前金にしていることで、支払いに責任を持てる方だけが予約してくださいます。結果としてトラブルが減り、対応にかかる時間も減ります。
私たちは以前、直販の比率を上げたことでお客様の質が変わったという経験をしました。前金も同じ構造です。間口を狭めたのではなく、残るべき予約だけが残っている。
前金は、イベントそのものを成立させる
もう一つ、運営を続ける中で気づいたことがあります。
割り勘のイベントで、前金がネックになるケースを考えてみてください。
幹事がしっかりしていて、事前にその方が支払いを済ませてくださる。この行為が実行できたイベントは、開催される必然性が大きくなります。
参加者にも「幹事が立て替えてくれている」という意識が働きます。だから参加意識が高まる。ドタキャンしづらくなる。
逆に「当日払えばいい」というゆるい枠組みのイベントでは、参加する人たちも簡単にキャンセルできてしまいます。誰も何も負っていないので、全員が気軽に降りられる。
つまり、お金を事前に払うという行為が、そのイベントを開催するための「責任」という言葉に変わるのです。
前金は幹事を縛るものではありません。参加者まで含めた場を締める装置として働いています。
例外もあります。コスプレの30%前金
原則は前金です。ただ、ひとつだけ例外的な運用をしている利用があります。
コスプレイヤーの皆さんの集まりです。
彼らはイベントを開催する意識が非常に高い。準備にも本気で取り組まれます。ただ、学生さんを中心とした年齢層のため、資金力に余裕がないことが多い。広いスペースを借りたくても、全額前払いだと実行が難しくなります。
そこで私たちは、コスプレの集まりに限り、事前入金30%で受け入れています。残りの70%は、イベント終了後に振り込んでいただく方式です。
70%が後払いというのは、普通に考えればリスクが高い。特に資金力の乏しい層であればなおさらです。
しかし実際は違います。
10年近くコスプレイヤーさんのご利用を受けてきましたが、未回収はゼロです。
理由は、彼らのコミュニティにストッパーが効いているからです。もし料金を払わない利用者が出れば、その情報は共有され、コスプレイヤーの皆さん自身が撮影やパフォーマンスをする場所を失うことになります。だから、後払いでもきちんと支払われます。
金銭ではない担保が存在している、ということです。
なお、この30%という数字は、実際にご利用いただくコスプレイヤーさんと相談しながら決めました。
30%が妥当かどうかより、30%を事前に払うことで責任を生じさせる。それが目的です。
ここに前金の本質があると思っています。前金は担保ではなく、スイッチです。払ったという事実が、その人の中で予約の位置づけを変える。だから30%でも機能する。逆に0%では、規約に何を書いてもスイッチは入りません。
未入金は7日で自動キャンセル。この数字にたどり着くまで
銀行振込を選ばれたお客様には、当然ながら「申し込んだけれど、まだ入金がない」という状態が発生します。
私たちのシステムでは、未入金の予約は7日で自動キャンセルする設定にしています。枠は自動的に開放されます。
7日という数字の理由は単純です。銀行振込の場合、「忙しくて振り込めなかった」という理由は、7日の猶予があればよほどのことがない限り成り立たないと考えたからです。
ただ、最初からこの数字だったわけではありません。
当初は2週間に設定していました。 ところが2週間お金が入らず、その後キャンセルになると、その間ずっと枠が塞がっていたことになります。明確な機会損失です。
そこから少しずつ調整して、最終的に7日に落ち着きました。理論から出した数字ではなく、運用の中で削っていった結果です。
そして、痛い経験もしました。
「期限内に入金しなければ自動的にキャンセルになる」と思い込んだまま、当日を迎えてしまったお客様がいました。
これは私たちの案内が不足していたことが原因です。まだ仕組みが整備できていない時期の話でした。この件ではキャンセル料を請求せず、自分たちの整備不足を補うための糧としました。
その後、同じことが起きないように、請求書の発行から3日後・6日後に、未入金の場合は自動でお知らせメールを送る仕組みを作りました。
自動キャンセルが「最後の督促」として働く
運用していて興味深いのは、自動キャンセルを発動した瞬間の反応です。
多くの場合、キャンセルした瞬間にお客様から連絡が来ます。
何度もメールが届いていることには気づいている。でもスルーしている。そこに「キャンセルしました」と断言されると、慌てて連絡してこられる。
つまりお客様は気づいていないのではなく、後回しにしているだけなのです。
督促のメールを何通送るより、実際に一度キャンセルするほうが効く。自動キャンセルは予約を失うための機能ではなく、最後の督促として機能しています。
ただし、ここは正確にお伝えしておきます。
実際には、7日で機械的にキャンセルすることはほとんどありません。
メールでご連絡し、場合によっては電話もします。そのうえで、それでも入金がない場合に限って、担当者の判断で予約をキャンセルする運用にしています。
私たちは別の記事で「キャンセル料の金額を人が決めるべきではない」と書きました。一見矛盾しているように見えるかもしれません。
しかし線引きははっきりしています。自動化しているのは、通知と期限の管理です。最後の実行判断は人が持っています。
金額の計算は毎回同じ結論になるべきものなので自動化する。一方、予約を消すかどうかは、そのお客様の状況によって答えが変わります。だから人が確認する。何を自動化して何を残すかは、この基準で決めています。
そして最大の理由は、キャッシュフローです
ここまで責任やフィルターの話をしてきましたが、経営者として最も実感している効果は別にあります。
前金は、即キャッシュになる。 これが本当に大きい。
構造で説明します。
2ヶ月先の予約が、今日入ったとします。ビジネスとしては今月の受注です。ところがポータルサイト経由の場合、実際にお金が入るのは利用の翌月、つまり3ヶ月後になります。
しかも、その2ヶ月先の予約がキャンセルになれば、入金そのものがありません。
一方、直販の前金であれば、受注したその月、遅くとも翌月には現金が手元にあります。
同じ売上でも、現金として使えるようになるまでが3ヶ月違うのです。
これは規模の小さい事業者ほど効きます。手数料が30%取られるという話と並ぶか、状況によってはそれ以上に重い問題です。
そしてもう一点。ポータル経由の予約は、確定した売上ではなく見込みでしかありません。前金の予約は、その時点で現金です。
同じ「予約」という言葉で呼んでいるものが、実は別物なのです。
だから、決済手段を増やしました
この観点から、私たちが自社で開発した予約システムでは、決済手段をできるだけ広く用意しています。
クレジットカード、PayPal、銀行振込、コンビニ払い、請求書払い。スペースごとに、どの手段を出すかも選べるようにしました。
銀行振込についても、Stripeの収納代行を使うことで、申し込みと同時に専用口座をご案内し、入金が反映されたら自動で予約が確定して領収書まで発行される仕組みにしています。
選択肢を増やすことが目的ではありません。どの手段を選ばれても、できるだけ早く現金化することが目的です。
さらに、振込で申し込まれた後でも、お客様がマイページから「カードで今すぐ支払う」に切り替えられるようにしました。振込に行くのが面倒になった方が、その場で決済できる。未入金のまま時間が過ぎる状態を減らすための機能です。
まとめ:前金は、事業者を守る仕組みではない
最後に整理します。
前金には3つの意味があります。
1つ目は、責任です。 お金を払うことで、お客様は自分の予約に責任を持ちます。事業者と対等な立場になります。イベントであれば、参加者まで含めて場が締まります。
2つ目は、フィルターです。 現地払いを望む予約が取れないのは機会損失ではありません。支払いに責任を持てない予約を、事前に選別できているということです。
3つ目は、キャッシュフローです。 同じ売上でも、手元に届くまでが3ヶ月違います。見込みではなく現金として持てることの意味は、規模が小さいほど大きくなります。
そして、原則は原則として持ちつつ、例外を設計することもできます。コスプレの30%前金は、金額ではなく責任を生じさせることが目的でした。原則がしっかりあるからこそ、例外を意図的に設計できるのだと思います。
もし今、「現地払いを断れずに困っている」「未入金の管理に消耗している」という状況であれば、仕組みで解決できる部分は多いはずです。
私たちが構築した予約システムは、複数の決済手段、未入金の自動督促と枠の自動開放、支払い方法の途中変更まで含めて、他の施設向けにカスタマイズしてご提供することが可能です。10年分の経験は惜しみなくお伝えしますので、お気軽にご相談ください。
関連記事
- レンタルスペースのキャンセルポリシー実例|規定・料率・運用の考え方を公開します
- レンタルスペースの予約システムがASPで合わない理由と、自社開発という選択肢
- レンタルスペース運営に最適な予約システム3選【柔軟設定・決済連携対応】
シリーズ一覧(全12話)
- 連載まとめ・目次
- #1 きっかけ編|「作れます」の一言から始まった
- #2 準備編|Cloudflareが何かも分かっていなかった
- #3 予約カレンダーと顧客導線|なぜ日付から入らせるのか
- #4 料金設計という難所|AIは「やめたほうがいい」とは言わない
- #5 決済とStripe|「借りてくるもの」だという思い込み
- #6 Googleカレンダー双方向同期|台帳は1つでいい
- #7 メールと通知の設計|10年間、諦めていたこと
- #8 思わぬ落とし穴|2回、巻き戻しました
- #9 ローンチ当日|「あっ、ヤバい」
- #10 ローンチ後に起きたこと|作った本人には見つけられない
- #11 予約システムが、画面の外に出た日(SwitchBot連携)
- #12 最終回|私でも、優秀なプログラマーを配下に置ける
運営ルールの記事
- レンタルスペースの予約システムがASPで合わない理由
- レンタルスペースのキャンセルポリシー実例
- 前金か後払いか|入金設計を10年やって出した結論(この記事)