
第1回で、私たちはSNSを販促ツールとして使っていないと書きました。
試したものの、そこに「スペースを使いたい」と思っている人がいなかったからです。
ただ、SNSを運用していた時期に、ひとつ気づいたことがあります。
それが、その後10年の運営方針を決めました。
お客様の投稿では、私たちは常に背景でした
SNSを運用していた頃、お客様が投稿している様子をよく見ていました。
そこで気づいたことがあります。
私たちのレンタルスペースは、常に背景にあるものであって、前面に押し出されているものではない。
コスプレの写真なら、主役は衣装と本人です。イベントの写真なら、主役は集まった人たちです。
スペースは必ず写っているのに、誰もスペースの話はしていません。
これを、欠点ではなく役割だと考えました
見方を変えると、こういうことです。
そのお客様のパフォーマンスをちゃんと補助できるものが、レンタルスペースなのではないか。
そう考えていく中で、ひとつの言葉が生まれました。
レンタルスペースは、料理を美しく見せる器である。
主役は料理です。器が主張しすぎると、料理が引き立ちません。
借りる人の目線に立つと、答えが出ます
この考え方は、実際にレンタルスペースを借りようと思っている人の目線になると、自然に出てきます。
お客様が考えているのは、こういうことです。
自分たちのパフォーマンスを際立たせるために、どのような背景が必要なのか。
ダンスの撮影かもしれません。ポップアップかもしれません。企業の展示イベントかもしれません。
どれも、やりたいことが先にあります。 そしてそれに合う背景を探している。
私たちは、そこに意識を置いてレンタルスペースを運営しています。
だから、世界観を持ち込みすぎません
具体的に何をしているか。
必要以上に施設に世界観を持ち込まないことを意識しています。
室内の装飾。壁紙。什器のデザイン。
無機質である必要はないと思います。 殺風景な部屋がいいという話ではありません。
ただ、主張しすぎないほうがいい。
お客様の側で、色付けができるように
目指しているのは、お客様の側で色付けができる施設です。
こちらが作り込んだ世界を提供するのではなく、お客様が持ち込むものを受け止められる状態にしておく。
装飾を足すことより、足さない判断のほうが難しいと感じています。
これは、商売の話でもあります
ここからが本題です。
器に徹するというのは、美意識の話ではありません。 収益に直結する判断です。
たとえば、中世ヨーロッパの部屋を作ったら
仮に、中世ヨーロッパのような世界観のスペースを作ったとしましょう。
見栄えはするかもしれません。写真映えもするでしょう。
しかし、どうなるか。
中世ヨーロッパのような世界観を必要とする人だけしか、利用する価値がなくなってしまいます。
つまり、自分で販売するマーケットを狭めてしまうわけです。
作り込むほど、使える人が減っていきます。
私たちは、実際に失敗しました
これは想像の話ではありません。
以前、私たちが失敗した古民家スペースが、まさにこれでした。
売れる施設の特徴について書いた回で触れましたが、その施設は半年でクローズしています。
しかも、二重に不利な状態でした。
古民家といっても、ものすごく古い古民家ではありません。ちょっと古いだけです。
そんなスペースにニーズはあるかと言えば、あると言えばあります。 ただ、ごく限られてしまう。
そうなると、利用頻度も上がりません。
世界観で市場を狭めたのに、その世界観自体が中途半端だった。 絞ったのに、他にない存在にもなれなかった。これが敗因のひとつでした。
岡崎の倉庫スタジオは、例外なのか
ここで、疑問を持たれる方がいると思います。
私たちが運営している岡崎の倉庫スタジオは、世界観がかなりがっつり出ている施設だからです。
無骨で、特殊で、明らかに主張があります。器に徹するという方針と矛盾しているように見えます。
実は、そうでもありません
あのスタジオは、ひとつの世界を完成させた施設ではありません。
コスプレやバンドのミュージックビデオなどに使えそうな背景を、いくつも集めた施設なのです。
完成品ではなく、素材の集合です。
一箇所で、複数のシーンが撮れる
だから、こういう価値が生まれます。
一つの場所で、複数のシーンが撮れる。
撮影するクルーにとっては、これはとても助かるはずです。ロケハンも移動も減らせます。撮影の現場では、移動時間がそのままコストになります。
つまり、これも器です
世界観を打ち出しているように見えて、中身は変わりません。
一つの世界で塗り固めていないから、市場を狭めていない。
見た目は正反対ですが、考え方は同じです。使う人が自分のものを持ち込める状態にしてある。
まとめ
整理します。
- お客様の投稿で、スペースは常に背景にある
- 借りる人は、自分のパフォーマンスを際立たせる背景を探している
- だから、世界観を持ち込みすぎない
- 作り込むほど、使える人が減る
- 世界観が強く見える施設でも、中身が「素材の集合」なら狭まらない
レンタルスペースの運営をしていると、もっと特徴を出したいという気持ちになることがあります。他と違うものを作りたくなる。
その気持ちは分かります。私たちも古民家でそれをやって、失敗しました。
主役は、お客様です。
器がいい仕事をしたかどうかは、料理が美味しく見えたかどうかでしか測れません。
そして私たちがSNSで発信しなくても、お客様が投稿してくださるとき、そこには必ず私たちのスペースが写っています。
それで十分だと思っています。
シリーズ一覧|選ばれるレンタルスペースの作り方(全10回)
- #1 10年やってきて、大切にしてきた3つのこと
- #2 売れる施設の特徴3選と、半年で閉じた施設の話
- #3 料金設定|平米単価から逆算する方法
- #4 写真に、嘘がないこと
- #5 Googleビジネスプロフィールは、小規模事業者が戦える場所
- #6 レンタルスペースは、料理を美しく見せる器です(この記事)
- #7 自動返信メールを、もっと働かせる
- #8 清潔感は、目ではなく肌で判断されている
- #9 リピーターは、値引きでは増えません
- #10 パーティーを、受けないことにしました
あわせて読みたい|レンタルスペースの始め方
これから始める方向けの連載です。物件選び、資金、消防法、撤退ラインまで全13回。
【筆者】
レンタルスペースALBE 運営会社 株式会社ファーストクリエイト 代表取締役 鬼頭創一