
物件が決まって、消防の条件もクリアした。
次は内装だ、集客だ、と気持ちが前に向く時期です。
その前に、やっておくべきことがあります。
近隣への挨拶です。
地味な話に聞こえると思います。ただ、これをやったかどうかで、後から起きることの重さが変わります。
今回は、そこを実例で書きます。
どこまで回るか
私たちは、開業前の挨拶をしっかりやります。
範囲はこうです。
ビル全体は必須です。
同じフロアだけでは足りません。上の階も下の階も回ります。音や人の出入りは、フロアを越えて伝わるからです。
そして、できれば近隣もまわります。
隣接する建物、向かいの店舗。ビルの外に影響が出る可能性があるなら、そこまで含めます。
誰に、何を渡すか
ビルメンテナンス会社や不動産オーナーさんにも、菓子折りとともに説明資料などを持っていきます。
第5回で書いた、レンタルスペース事業の提案資料です。
そして伝えるのは、ひとつです。
きちんと真面目に事業をやっている。
これを説明しに行きます。
なぜ、そこまでやるのか
正直に言えば、面倒な作業です。時間もかかります。
それでもやる理由があります。
実際に、この関係に助けられたことがあるからです。
実際にあった話
私たちが運営しているアルベホール名古屋で、トラブルが起きたことがあります。
利用者が室内で喫煙し、泥酔して騒ぎ、屋外で吸い殻をポイ捨てする。そういう利用が続いた時期がありました。
そして、近隣から苦情が来ました。
電話は、ビルオーナーから来ました
苦情は、ストレートに電話で来ました。
しかも、電話をしてきたのはビルオーナーさんです。
ビルオーナーさんも、テナントさんから相談されてこちらに連絡してきた、という経路でした。
一見、最悪の経路です
これは、一番まずい伝わり方に見えます。
直接の苦情ではなく、又聞きの形で、しかも私たちが部屋を借りている相手に届いている。
契約の話になってもおかしくありません。
でも、大ごとにはなりませんでした
結果として、大ごとにはなりませんでした。
理由は、はっきりしています。
事前にビルオーナーさんとの関係ができていたからです。
顔を知っている相手だから、まず電話をくれた。 事情を聞いてくれた。
関係がなければ、どうなっていたか分かりません。いきなり契約の話になっていたかもしれませんし、テナントから直接、もっと強い形で来ていた可能性もあります。
予防策の、本当の意味
この経験から、考え方が変わりました。
予防策は、問題を起きなくするものではありません。
挨拶をしたからといって、トラブルが起きなくなるわけではないのです。実際、私たちは起こしました。
予防策は、起きたときの着地を変えるものです。
同じトラブルでも、関係があれば電話で済む。関係がなければ、いきなり最終通告になる。
そこが違います。
定期的な接点は、持っていません
正直に書いておきます。
開業後、定期的な接点は持っていません。
年に一度挨拶に行くとか、イベントの予定を毎回知らせるとか、そういう運用はしていません。
開業前に一度きちんとやっておけば、それで足りるというのが実感です。
顔を知っていて、何をやっている会社か分かっている。その状態さえ作れていれば、必要なときに動けます。
無理に接点を作り続ける必要はないと思っています。
同じ訪問で、もうひとつやっています
そして、この挨拶にはもうひとつの意味があります。
入居しているビルに企業が入っているのであれば、「会議室利用としてお使いいただいてもいいですよ」と伝えます。
何かしらアドバンテージをつけて、利用促進につなげるわけです。
これは、開業前の挨拶のときに一緒に伝えます。
苦情を言う側が、お客様になります
考えてみると、面白い構図です。
同じビルのテナントは、苦情を言う側になるかもしれない相手です。音が響けば、最初に気づくのは彼らです。
その相手に、挨拶の場でお客様になっていただく提案をしている。
条件としても、悪くありません
そして、企業側にとっても悪い話ではありません。
移動がゼロです。 必要なときだけ使えます。自社で会議室を持つ必要がない。
第2回で書いたとおり、事務所の固定費削減のために会議室を手放し、近隣の貸し会議室を使うという流れが起きています。
その需要が、同じビルの中にあります。
関係の質も変わります
取引があれば、関係が変わります。
何かあったときに、直接言ってもらえるようになる。
先ほど書いたトラブルは、テナント→ビルオーナー→私たち、という又聞きの経路で届きました。取引先であれば、直接電話が来ます。
そのほうが、早く手を打てます。
守りが、そのまま攻めになります
整理すると、こういうことです。
開業前の挨拶は、トラブルへの備えです。守りの施策です。
しかし同じ訪問が、集客の入口にもなります。
一度の訪問で、両方できます。
面倒な作業だと書きましたが、費用はほとんどかかりません。 菓子折り代と、歩く時間だけです。
それで、トラブルの着地が変わり、お客様が増える可能性がある。
やらない理由がありません。
まとめ
1. ビル全体は必須。できれば近隣も
音や人の出入りは、フロアを越えて伝わります。
2. 菓子折りと説明資料を持って、事業の説明をする
「きちんと真面目にやっている」と伝えることが目的です。
3. 定期的な接点は要らない
開業前に一度やっておけば足ります。
4. 同じ訪問で、会議室利用を案内する
守りの施策が、そのまま集客になります。
次回
次回から、お金の話に入ります。
まずは資金調達と運転資金です。
レンタルスペースは、始めてすぐにお客様が入る事業ではありません。少しずつ売上を伸ばしていく体力が必要です。
そして、撤退ラインをどこに引くかという話も書きます。ここを決めておかないと、判断が遅れて負債だけが残ります。
シリーズ一覧|レンタルスペースの始め方(全13回)
- #1 初月の売上は、5万円でした
- #2 需要は、お客様に聞くのが一番早い
- #3 初期投資が少ない領域ほど、競合が多い
- #4 最初に揃えない。聞かれてから足す
- #5 「レンタルスペース? 何それ」から始まります
- #6 パルコから1分の物件を、諦めた話
- #7 断られた物件に、入居できた話
- #8 開業前の挨拶が、後で効きます(この記事)
- #9 この商売は、魚屋さんと同じです
- #10 ゴールは、家賃の2倍です
- #11 一人で5スペース。ただし休みはありません
- #12 規約を一番読んでいるのは、悪意を持った人です
- #13 最終回|どこにお金をかけるか
あわせて読みたい|選ばれるレンタルスペースの作り方
すでに運営されている方向けの連載です。料金、写真、集客、清掃、リピーターまで全10回。
【筆者】
レンタルスペースALBE 運営会社 株式会社ファーストクリエイト 代表取締役 鬼頭創一