
開業資金というと、こういうものを思い浮かべると思います。
保証金、内装費、什器備品。
どれも必要です。ただ、私たちが一番意識したのは、そこではありませんでした。
運転資金です。
なぜそうなるのか。まず、この商売がどういう構造をしているかから書きます。
レンタルスペースは、魚屋さんと同じです
レンタルスペースの商売は、魚屋さんと同じです。
今日売れなければ、翌日に持ち越せない在庫を持っています。
その日売れればお金になりますが、売れなければ一円にもなりません。
大事なのは、売上が立てられるかどうか。 しかも、これを毎日続けなければなりません。
昨日満室だったからといって、今日の在庫が減るわけではありません。毎日、新しい在庫が発生して、毎日、消えていきます。
この考え方は、ホテル時代に学びました
余談ですが、この「魚屋さん理論」は私がホテル時代に学んだものです。
ホテルの客室も、まったく同じ性質を持っています。今夜売れなかった一泊は、翌日に回せません。 その一泊は、永久に戻ってきません。
だからホテル業界では、その日の在庫をどう売り切るかに神経を使います。
レンタルスペースを始めたとき、この感覚がそのまま使えると思いました。
だから、商品を細かく割ります
ここで、売り方の話になります。
システムを自社開発する中で、あらためて整理できたことがあります。
売上を作るための「商品化」です。
1日貸しなら、商品は1個です
たとえば、ひとつの部屋を1日貸しで販売すると、1日1個の商品になります。
売れれば売上が立つ。売れなければゼロ。それだけです。
時間貸しにすると、10個になります
同じ部屋を時間貸しにするとどうなるか。
10時間営業なら、1日10個の商品を持てます。
1,000円 × 10時間 = 10,000円
売上の上限は同じでも、中身がまったく違います。
少しずつ売るほうが、売り切れます
商品数が増えるほうが、購入されやすい。
魚を一匹丸ごとでしか売らないのか、切り身にして並べるのか。切り身にしたほうが、売れ残りが減ります。
そして、利用者にとっても都合が良い。
「3時間だけ利用したい」という需要に応えられます。
1日貸ししかなければ、その需要は取りこぼすことになります。これが時間貸しのメリットです。
ただし、細かく割ると手間が増えます
一方で、時間貸しには負担もあります。
1時間でも1日でも、売り物とサービスは同じだからです。
同じ部屋を、同じ状態に整えて渡す。その手間は、利用時間の長さに比例しません。
1日に3回清掃するよりも、1日1回の清掃のほうが効率が良い。
同じ10,000円の売上でも、かかる時間が違います。
1日貸しが有利な場面
では、1日貸しが有利なのはどういうときか。
複数日利用である必要があります。
連続して押さえていただけるなら、間の清掃も不要になります。手間が少なく、まとまった売上が立つ。
整理すると、こうなります
| 売れ残りリスク | 手間 | |
|---|---|---|
| 時間貸し | 小さい(細かく売り切れる) | 大きい(回すたびに清掃) |
| 1日貸し・複数日貸し | 大きい(埋まらなければ丸ごと消える) | 小さい |
どちらが正解というものではありません。
理想は、両方を持てることです。平日の細かい需要は時間貸しで拾い、まとまった利用は1日貸しで受ける。
そして、お得意さんが必要です
もうひとつ、魚屋さんと同じところがあります。
魚屋さんは、新鮮なものを仕入れて、毎日買いに来てくれるお得意さんを増やさないといけません。
一見のお客様だけで、毎日の在庫を売り切るのは無理があります。
基礎になる需要が要ります。
レンタルスペースも同じです。単発の利用だけで毎日を埋めるのは厳しい。定期利用のレッスンや、繰り返し使ってくださるお客様が土台になります。
第1回で、「これはいける」と思えたのは複数日連続や定期利用のお客様が見えてきてからだと書きました。
あれは、お得意さんが見えた瞬間でした。
そして、それが見えるまでに2年かかっています。
「新鮮なものを仕入れて」の部分も同じです
もうひとつ付け加えると、毎回同じ状態で用意しておくことも欠かせません。
掃除が行き届いていて、設備が整っていて、前の利用者の跡がない。それがあるから、次も来ていただけます。
本題|だから、運転資金です
ここまで書いてきた構造を踏まえると、資金の話が腹に落ちると思います。
毎日消える在庫を、毎日埋め続ける商売です。
そして、お得意さんができるまでに時間がかかります。
だから、その間を持ちこたえる体力が必要になります。
最初に相談したのは、日本政策金融公庫でした
資金調達については、各企業・各事業者ごとに事情が異なると思います。
私たちの例をひとつ挙げると、レンタルスペース事業を始めるときにまず最初に相談したのが、日本政策金融公庫でした。
こちらは、非常に柔軟に、私たち中小企業の融資相談を聞いてくれます。
初期の立ち上げのときには、非常に助かりました。
なぜ、運転資金なのか
理由は単純です。
レンタルスペース事業は、始めて即座にお客様がバンバン入るものではありません。
これはレンタルスペースに限った話ではないと思います。飲食事業などでも同じでしょう。
少しずつ売上を伸ばしていく必要があります。
そして、そこで生き残っていくための体力が必要です。
私たちの場合
第1回で書いたとおり、初月の売上は5万円でした。
初年度は、月商でいえば10万円。良くて20万円くらい。
そして「これはいける」と手応えを感じたのは、2年後です。
まったく華々しいスタートではありませんでした。
ただし、条件が違います
ここは正直に書きます。
私たちは、家賃を写真部の経費として見ていました。 レンタルスペース事業としては、家賃負担をあまり深く考えなくてよかった。
だから2年待てたのです。
物件を借りて始める方は、同じようにはいきません。 契約した瞬間から家賃が発生します。
目安は、家賃3か月分です
では、いくら確保しておくべきか。
スペースの規模によって融資額は異なると思いますが、私たちの感覚では、
家賃3か月分の運転資金は確保したい。
これが最低限の目安です。
売上がゼロでも3か月は耐えられる。その間に、集客の手を打つ。
立ち上げ期は、ポータルサイトを使ってください
ここで、ひとつ重要なことを書きます。
立ち上げ期は、スペースマーケットさんやインスタベースさんのようなポータルサイトを活用すべきです。
私たちが直販中心なのは、理由が別にあります
私たちALBEは、直販を主軸にしています。ポータルは補助的な販売チャネルという位置づけです。
ただ、これには理由があります。
私たちが始めた頃には、そういった媒体がなかったのです。
自分たちで集めるしかなかった。選んだのではなく、それしか方法がありませんでした。
今から始めるなら、話は別です
今は違います。様々な媒体があるので、活用するのは良いと思います。
考えてみてください。
開業したばかりの施設には、自社サイトの検索順位もありません。口コミもありません。実績もありません。
その状態から、直販だけで立ち上げるのは現実的ではありません。
手数料を払っても、空室のままよりいい
ポータル経由の手数料は、決して安くありません。
ただ、売上の立ち上がりが早ければ、それだけ運転資金が残ります。
手数料を払って埋まるのと、手数料を払わずに空いているのとでは、後者のほうが高くつきます。
立ち上げ期と安定期では、正解が違います。
まずは埋める。実績と口コミを作る。そこから少しずつ直販の比率を上げていく。私たちがやっている直販は、その先の話です。
撤退ラインを、先に決めてください
ここからが、今回で一番書きたいことです。
そのレンタルスペースがうまくいかなかったとき、どこで線を引くか。
これを始める前に決めておく必要があります。
基準は、運転資金です
私たちの考え方は、こうです。
運転資金が枯渇する可能性が明確になってきたときに、切る。
「枯渇したとき」ではありません。枯渇が見えてきた時点です。
枯渇してからでは、遅すぎます
理由があります。
やめるときにも、お金がかかるからです。
原状回復の費用。什器類の処分費用。 これが大きな負担になります。
手元がゼロになってから撤退を決めても、その費用が払えません。
数字は、予測できます
幸い、この判断は勘に頼る必要がありません。
毎月の売上と支出が分かっていれば、3か月後にどうなるかは計算できます。
「このペースだと、あと4か月で尽きる」
そう見えた時点が、判断のタイミングです。
遅れると、負債だけが残ります
なぜ早い判断が必要なのか。
運転資金が枯渇したときに直ちに動かないと、今度は負債ばかりを追いかけることになります。
そうなると、どんどん運営が厳しくなります。苦しくなります。
売上が足りない分を、借りて埋める。埋めても改善しないので、また借りる。
そうならないために、早めの判断が必要な業種・業態だと思います。
私たちも、半年で閉じました
実際に、私たちも失敗しています。
かつて運営していた古民家スペースは、半年でクローズしました。
このときの敗因のひとつは、ディスカウントに走ってしまったことです。埋まらないから下げる。下げても埋まらない。その結果、キャッシュが足りなくなりました。
半年で判断したのは、結果的には早かったと思っています。
ゼロになるまで粘らなかったから、次に進めました。
まとめ
お金について、5つだけ。
1. これは「毎日消える在庫」を売る商売
魚屋さんと同じです。今日売れなければ、一円にもなりません。
2. 商品を細かく割ると、売り切れる
時間貸しは在庫を割る行為です。ただし手間が増えます。1日貸し・複数日貸しは手間が少ない代わりに、埋まらなければ丸ごと消えます。両方持てるのが理想です。
3. 保証金や内装費より、運転資金を意識する
すぐに客は入りません。家賃3か月分が最低限の目安です。
4. 立ち上げ期はポータルサイトを使う
手数料を払っても、空室のままよりいい。直販はその先の話です。
5. 撤退ラインを、始める前に決めておく
運転資金の枯渇が見えてきた時点で判断する。枯渇してからでは、やめる費用が払えません。
撤退の話を開業の連載で書くのは、気が重いことでもあります。
ただ、出口を決めてから入るほうが、結果的に思い切って踏み出せます。
次回
次回は、黒字化までの道のりと、買わなくてよかったものについて書きます。
私たちの見立てでは、支払家賃に対して最終的に2倍稼ぐのがゴールです。そこまでにどれくらいかかるのか。
そして、実際に買って失敗した設備の話も、正直に書きます。
シリーズ一覧|レンタルスペースの始め方(全13回)
- #1 初月の売上は、5万円でした
- #2 需要は、お客様に聞くのが一番早い
- #3 初期投資が少ない領域ほど、競合が多い
- #4 最初に揃えない。聞かれてから足す
- #5 「レンタルスペース? 何それ」から始まります
- #6 パルコから1分の物件を、諦めた話
- #7 断られた物件に、入居できた話
- #8 開業前の挨拶が、後で効きます
- #9 この商売は、魚屋さんと同じです(この記事)
- #10 ゴールは、家賃の2倍です
- #11 一人で5スペース。ただし休みはありません
- #12 規約を一番読んでいるのは、悪意を持った人です
- #13 最終回|どこにお金をかけるか
あわせて読みたい|選ばれるレンタルスペースの作り方
すでに運営されている方向けの連載です。料金、写真、集客、清掃、リピーターまで全10回。
【筆者】
レンタルスペースALBE 運営会社 株式会社ファーストクリエイト 代表取締役 鬼頭創一